「年金は65歳から受け取るのが普通?」
「できるだけ早く60歳からもらったほうが得なの?」
「70歳まで繰り下げると年金が増えると聞いたけれど、本当にお得?」
老後の生活を考えると、年金を何歳から受け取るかは非常に重要な問題です。
実は、公的年金は受給開始年齢を自分で選択できる場合があり、60歳から65歳までの「繰上げ受給」、65歳から75歳までの「繰下げ受給」を利用できます。
ただし、早く受け取れば年金額は減り、遅く受け取れば年金額は増えます。
この記事では、2026年現在の制度をもとに、
- 年金は何歳から受け取れるのか
- 60歳・65歳・70歳・75歳の違い
- 繰上げ受給のメリット・デメリット
- 繰下げ受給のメリット・デメリット
- 何歳まで生きれば繰下げが得になるのか
- 65歳・70歳・75歳ならどれがおすすめなのか
- 年金受給開始年齢を決めるポイント
について詳しく解説します。

結論:年金は「何歳からが絶対に得」とは言えない
最初に結論を言うと、すべての人にとって最も得になる受給開始年齢はありません。
なぜなら、年金の受給開始年齢を決めるときには、
- 現在の貯蓄額
- 65歳以降の収入
- 毎月の生活費
- 健康状態
- 何歳まで働くか
- 配偶者の年金
- 税金や社会保険料
- 長生きした場合の生活資金
などを総合的に考える必要があるからです。
ただし、単純に「年金の総受取額」だけで比較すると、目安を計算することはできます。
年金は原則65歳から受け取る
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、原則として65歳から受け取ります。
老齢基礎年金は、受給資格期間が10年以上あることなどの要件を満たすと、原則65歳から受給できます。
また、厚生年金に加入していた人は、条件を満たせば老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受け取れます。
しかし、65歳以外の年齢から受け取る選択肢もあります。
大きく分けると、
60~64歳 → 繰上げ受給
65歳 → 本来の受給開始
66~75歳 → 繰下げ受給
という仕組みです。
60歳から受け取る「繰上げ受給」とは?
「65歳まで待てない」
「60代前半から生活費が必要」
という人が利用できるのが繰上げ受給です。
原則として60歳から65歳になるまでの間に年金を請求できます。
ただし、大きな注意点があります。
繰上げ受給すると、年金額が減額され、その減額率は一生変わりません。
2022年4月以降、昭和37年4月2日以降生まれの人については、繰上げによる減額率は**1か月あたり0.4%**です。
たとえば60歳まで5年間繰り上げると、
0.4%×60か月=24%減額
となります。
つまり、65歳時点で月10万円の年金を受け取れる人なら、単純計算では、
月10万円 → 月7万6,000円
となります。
そして、この減額は一生続きます。
繰上げ受給の減額率
昭和37年4月2日以降生まれの人の場合、代表的な減額率は次のとおりです。
受給開始年齢減額率60歳24.0%61歳19.2%62歳14.4%63歳9.6%64歳4.8%65歳0%
| 受給開始年齢 | 減額率 |
| 60歳 | 24.00% |
| 61歳 | 19.20% |
| 62歳 | 14.40% |
| 63歳 | 9.60% |
| 64歳 | 4.80% |
| 65歳 | 0% |
つまり、60歳から受け取ると最大24%減額されます。
60歳からの年金は本当に損なの?
必ずしも「損」とは言えません。
たとえば、
- 60歳以降に収入が少ない
- 貯金を取り崩したくない
- 健康面などから早めに年金を受け取りたい
- 長生きするより今の生活を重視したい
という人にとっては、早く受け取るメリットがあります。
一方で、長生きした場合には、減額された年金を長期間受け取ることになります。
「早く受け取れる安心感」と「一生減額されるデメリット」のどちらを重視するかがポイントです。

65歳から受け取るのが最も標準的
65歳から受給する方法は、いわば「基準」です。
繰上げによる減額もなく、繰下げによる増額もありません。
そのため、
「年金を早くもらう必要はないけれど、75歳まで待つのも不安」
という人にとって、65歳開始は非常に分かりやすい選択肢です。
特に、
「65歳から年金を受け取りながら、不足分だけ貯金から補う」
という方法も考えられます。
70歳まで年金を繰り下げるとどうなる?
一方、年金を増やしたい人から注目されているのが「繰下げ受給」です。
66歳以後75歳までの間で受給開始を遅らせることができます。
繰下げた期間に応じて年金額が増額され、その増額率は一生変わりません。
現在の制度では、1か月繰り下げるごとに0.7%増額されます。
そのため、70歳まで繰り下げると、
42%増額
となります。
75歳まで繰り下げれば、
84%増額
です。
繰下げ受給の増額率一覧
受給開始年齢増額率65歳0%66歳8.4%67歳16.8%68歳25.2%69歳33.6%70歳42.0%71歳50.4%72歳58.8%73歳67.2%74歳75.6%75歳84.0%
| 受給開始年齢 | 増額率 |
| 65歳 | 0% |
| 66歳 | 8.40% |
| 67歳 | 16.80% |
| 68歳 | 25.20% |
| 69歳 | 33.60% |
| 70歳 | 42.00% |
| 71歳 | 50.40% |
| 72歳 | 58.80% |
| 73歳 | 67.20% |
| 74歳 | 75.60% |
| 75歳 | 84.00% |
日本年金機構によると、繰下げによる増額は生涯続きます。
70歳まで繰り下げると年金はいくら増える?
例えば65歳時点の年金額が、
年間180万円(月15万円)
だったとします。
70歳まで繰り下げると42%増額されるため、単純計算では、
180万円 × 1.42 = 約255.6万円
となります。
つまり、
年間約256万円
月額約21.3万円
です。
75歳まで繰り下げた場合は84%増額なので、
180万円 × 1.84 = 約331.2万円
となり、
年間約331万円
月額約27.6万円
となります。
ただし、実際の年金額は加給年金、振替加算、在職による支給停止などによって変わる場合があります。
では、65歳と70歳は何歳で逆転する?
ここが「年金は何歳からが得?」という疑問で最も重要なポイントです。
65歳から受給する場合を「年金1年分」とします。
70歳まで繰り下げると42%増える一方、65~69歳の5年間は年金を受け取りません。
単純計算すると、
65歳から5年間受給しない金額
=1×5=5
70歳以降は、
1.42
を毎年受け取ります。
失った5年分を取り戻すために必要な期間は、
5 ÷ 0.42 ≒ 11.9年
となります。
つまり、
70歳から受給を始めた場合、単純計算では約82歳前後が損益分岐点
になります。
82歳より長生きすれば、70歳まで繰り下げたほうが累計受給額が多くなりやすく、82歳より前なら65歳から受給したほうが累計額は多くなりやすい、という考え方ができます。
※税金・社会保険料・年金額の改定などを考慮しない単純比較です。
75歳まで繰り下げた場合は?
75歳まで繰り下げると、年金は84%増額されます。
しかし、65~74歳の10年間は年金を受け取りません。
単純計算では、
10 ÷ 0.84 ≒ 11.9年
です。
したがって、
75歳から受給する場合の損益分岐点は約87歳前後
となります。
つまり、かなり長生きすることを前提にした選択と言えます。
65歳・70歳・75歳、どれが得なのか?
単純な累計受給額だけで考えると、次のように整理できます。
受給開始増減単純な損益分岐の目安60歳24%減約69歳65歳基準基準70歳42%増約82歳75歳84%増約87歳
| 受給開始 | 増減 | 単純な損益分岐の目安 |
| 60歳 | 24%減 | 約69歳 |
| 65歳 | 基準 | 基準 |
| 70歳 | 42%増 | 約82歳 |
| 75歳 | 84%増 | 約87歳 |
ただし、これはあくまで「年金額だけ」を単純比較した数字です。
実際の老後生活では、税金、社会保険料、加給年金、在職老齢年金、配偶者の年金なども考慮する必要があります。

年金を70歳まで繰り下げるのがおすすめな人
次のような人は、繰下げ受給を検討する価値があります。
1.65歳以降も働く予定がある人
65歳以降も仕事を続けられるなら、年金をすぐに使わず生活費を給与でまかなう方法があります。
そのうえで年金を繰り下げれば、将来の年金額を増やせます。
2.貯金に余裕がある人
65~70歳の生活費を貯金や給与などでカバーできる人は、繰下げを選択しやすくなります。
3.長生きへの備えを重視する人
繰下げによる増額は一生続きます。
老後の後半になるほど、
「毎月の収入が少ない」
という問題は大きくなります。
そのため、長寿になった場合の生活資金を厚くしたい人には、繰下げ受給が有力な選択肢になります。
65歳から受け取ったほうがいい人
逆に、65歳から受給したほうが安心できる人もいます。
例えば、
- 65歳時点ですでに生活費が不足している
- 貯金をあまり持っていない
- 65歳以降に働く予定がない
- 年金を生活費としてすぐ使いたい
- 繰下げによるメリットより現在の生活を重視したい
という人です。
年金は「長生きした場合の得」だけでなく、今の生活を安定させるためのお金でもあります。
60歳からの繰上げ受給を検討してもいい人
繰上げ受給は一生減額されるため、慎重に判断する必要があります。
それでも、
「65歳まで待つと生活が苦しい」
「貯金を大きく取り崩したくない」
という場合には選択肢になります。
重要なのは、単純に
「繰上げ=損」
と考えないことです。
早く受け取った年金を生活に使うことで、貯金を守れる場合もあります。
実は「基礎年金と厚生年金を別々に繰り下げる」方法もある
繰下げ受給では、老齢基礎年金と老齢厚生年金をそれぞれ別々に繰り下げることもできます。
これは非常に重要なポイントです。
例えば、
「老齢基礎年金は65歳から受け取る」
「老齢厚生年金だけ70歳まで繰り下げる」
というような組み合わせを検討できる場合があります。
すべてを一律に繰り下げる必要はありません。
自分の生活費や収入に合わせて、受け取り方を考えることが重要です。
年金を繰り下げるときの注意点
「84%も増えるなら75歳まで繰り下げればいい」
と単純に考えるのは危険です。
注意点1:65歳から受け取らない期間がある
75歳まで繰り下げるなら、65~74歳の10年間は基本的にその年金を受け取りません。
その期間の生活費をどうするかが重要です。
注意点2:税金や社会保険料も考える
年金額が増えれば、所得税や住民税、社会保険料などに影響する場合があります。
したがって、
「額面の年金が84%増える=手取りが84%増える」
とは限りません。
注意点3:加給年金などは別扱い
加給年金額など、繰下げによる増額の対象にならないものがあります。
日本年金機構も、加給年金額や振替加算、在職による支給停止額などについて注意を促しています。
注意点4:働きながら年金を受け取る場合
厚生年金に加入しながら働く場合には、在職老齢年金制度による支給停止が関係するケースがあります。
そのため、働きながら年金を受け取る人は、自分の給与と年金の関係も確認しておきましょう。
「健康に自信がないから65歳から」は合理的?
これは一概には言えませんが、考え方としては重要です。
繰下げ受給の最大のポイントは、
長生きするほどメリットを受けやすい
ということです。
一方で、早い段階から年金を受け取れば、そのお金を現在の生活や趣味、旅行、住宅修繕などに使えます。
老後のお金は、
「最終的にいくらもらったか」
だけではなく、
「いつ使えるお金が必要なのか」
も重要です。

年金は「長生き保険」と考えると分かりやすい
年金の繰下げを考えるときは、
「長生きしたときの毎月の収入を増やす仕組み」
と考えると分かりやすくなります。
例えば70歳まで繰り下げて42%増額された年金なら、その増額分は一生続きます。
老後後半に貯金が少なくなった場合でも、毎月の年金収入が大きければ生活を安定させやすくなります。
年金を何歳から受け取るか決める5つのポイント
ポイント1:65歳時点の年金額を確認する
まず「自分はいくらもらえるのか」を確認しましょう。
ねんきん定期便や「ねんきんネット」などを利用して、見込み額を確認することが大切です。
ポイント2:65~70歳の生活費を計算する
70歳まで繰り下げるなら、65~69歳の生活費を準備する必要があります。
例えば月25万円の生活費なら、
25万円×60か月=1,500万円
となります。
もちろん給与などの収入があれば、その分を差し引いて考えます。
ポイント3:何歳まで働くか決める
65歳以降も働く場合は、年金を急いで受け取らなくても生活できる可能性があります。
ポイント4:貯金をどこまで使えるか考える
「老後資金をできるだけ残したい」のか、
「65~70歳の間に使いたい」のか。
ここでも選択が変わります。
ポイント5:夫婦の場合は世帯全体で考える
夫婦それぞれが、
「夫は65歳」
「妻は70歳」
など、別々の受給開始年齢を選ぶことも考えられます。
夫婦の年金を合計して、世帯のキャッシュフローを考えることが大切です。
結局、年金は何歳から受け取るのがお得?
ここまでを整理すると、
60歳
早く年金を受け取れる一方、最大24%の減額になります。
「今の生活を優先したい人向け」
65歳
減額も増額もない標準的な受給開始年齢です。
「バランスを重視する人向け」
70歳
42%増額されます。
「65歳以降の生活資金に余裕があり、長生きへの備えを重視する人向け」
75歳
84%増額されます。
「十分な資産・収入があり、長寿リスクへの備えを最優先する人向け」
というイメージです。
個人的な「おすすめ」より、自分の損益分岐点を考える
「年金は70歳まで繰り下げるべき」
「年金は65歳から受け取るべき」
と一律に決めるのはおすすめできません。
重要なのは、
自分の場合、何歳から受給すると老後生活が安定するのか
を考えることです。
例えば、
65歳から受給
→ 毎月18万円
70歳から受給
→ 約25.6万円
となる人なら、70歳まで待つことで毎月の年金収入は大きく増えます。
一方、65~69歳の生活費を貯金から出す必要があります。
つまり、
「年金額を増やす」ことと「65~69歳のお金を確保する」ことをセットで考える
必要があります。
まとめ:年金の受給開始年齢は「65歳を基準」に考えよう
年金を何歳から受け取るのがお得なのかは、人によって違います。
現在の制度では、原則65歳から受給できます。
60~65歳に繰上げると年金額は減少し、昭和37年4月2日以降生まれの人の場合、60歳まで繰り上げると最大24%減額されます。
一方、66~75歳まで繰り下げると、1か月あたり0.7%ずつ増額され、70歳なら42%、75歳なら84%の増額になります。
単純計算では、
65歳 vs 70歳 → 約82歳前後が損益分岐点
65歳 vs 75歳 → 約87歳前後が損益分岐点
という目安になります。
ただし、税金・社会保険料・加給年金・在職老齢年金などによって実際の手取りや有利不利は変わります。
だからこそ、
「何歳まで生きるか」だけではなく、「65歳以降をどう暮らしたいか」
から逆算することが大切です。
老後資金に余裕があるなら繰下げを検討し、65歳から生活費が必要なら65歳受給を基本に考える。
そして、生活費が不足するなら繰上げ受給も選択肢に入れる。
これが、年金の受給開始年齢を考える基本的な考え方です。
※この記事は公的年金制度の一般的な情報を解説したもので、個別の受給判断を推奨するものではありません。実際の受給額や制度の適用については、日本年金機構や「ねんきんネット」などで最新情報をご確認ください。


